炭素市場の現状と傾向2008
環境省が公表した「国内排出量取引制度のあり方について(中間まとめ)」の中から、「炭素市場の現状と傾向2008」を紹介する。これは、今年1月から実施された「国内排出権取引制度検討会」の第6回目の際の参考資料として公表されたもの。
世界銀行は、2008年5月7日に「炭素市場の現状と傾向2008(State and Trends of the Carbon Market 2008)という報告書を発表した。同報告書では、2007年の炭素市場の現状や動向が整理されている。以下、その要約を紹介する。
●炭素市場の成長
2007年に炭素市場の規模は640億米ドル(470億ユーロ)まで拡大した。炭素市場の最大の成果は、市場に対して二酸化炭素排出削減の価格シグナルを示したことであった。この価格シグナルにより、世界中で技術革新や排出削減が促され、意欲のある個人、コミュニティ、企業、政府が協力して排出削減に取り組んでいる。
【排出枠市場】
EU-ETSは、EU域内において排出削減を達成し、域外における排出削減を促すことに成功している。フェーズ1では、排出枠が過大に割り当てられたものの、EU域内で5000万~1億トン-CO2の排出削減が起こったと見込まれている。欧州委員会は、フェーズ1の経験を生かしてフェーズ2の設計要素を強化しており、2012年以降の枠組み提案において、削減目標や柔軟性措置を改善している。こうした改革によって、排出量取引制度に対し、信頼できる費用効果的な炭素削減ツールとしての信用が生まれる。
【CDM/JI事業クレジットの市場】
2007年も引き続き、CDM/JI事業クレジットに対する強い購買意欲が示されており、68カ国において約25億トン-CO2の排出削減に相当する3000以上のプロジェクトが開発されている。
取引されているCDM/JI事業クレジットの大部分(取引量の87%、取引金額の91%)はCDMが占めている。ただし、2007年にはJI市場や自主的市場が拡大し、いずれの市場も2006年と比較して取引量及び取引金額がそれぞれ約2倍、約3倍になった。
【中国の独占、アフリカの台頭】
CDMクレジットの最大の売り手国は依然として中国であり、取引量のシェアは73%にまで拡大した。アフリカ諸国(5%)、東欧・中央アジア(1%)が炭素市場に登場し、中国に偏り過ぎたポートフォリオを多様化させる機会を買い手に提供した。
【クリーンエネルギー事業の台頭】
2007年は、クリーンエネルギー事業(エネルギー効率改善と再生可能エネルギー開発)がCDM/JI事業クレジット取引量の約3分の2を占めた。これらのプロジェクトは、パフォーマンスが予測可能であり、プロジェクト設計書(PDD)の予測量の70~90%に相当するクレジットが発行されているため、買い手から注目されている。
【価格、価格の差別化】
主要な先渡契約の2007年及び2008年初頭における平均クレジット価格は10ユーロであり、8~13ユーロの範囲であった。高値が付いたのはCDMの手続きが進んているプロジェクト(例:登録済プロジェクト)や、経験豊富なスポンサーが開発した信用リスク等が低いプロジェクト、高いクレジット発行率が期待されるプロジェクトであった。
発行済CERの現物契約におけるクレジット価格は16~17ユーロであり、一次CERよりプレミアムが付いているものの、まだEUA価格より安い。欧州委員会による2020年提案、貨幣の時間的価値、EUへの国際取引ログ(ITL)の接続遅れ等の影響があるからである。
【気候にやさしい投資】
2007年に95億米ドル(70億ユーロ)の資金が、炭素クレジットの直接購入またはプロジェクトへの投資を行う58の公的/民間のファンドや、炭素資産を生み出す民間企業に投資されたと推定される。
【クレジット取引市場】
2007年及び2008年初頭における最も大きな市場の変化は、クレジット取引市場の台頭である。昨年の2007年報告書の段階では、クレジット取引市場は事業クレジットのためのプロジェクト開発者が「プロジェクト固有の保証」を提供するケースが大半であったが、2007年にCERの登録・発行の遅延とリスクが広まったことを受けて、プロジェクトのポートフォリオを通して、買い手に販売するCER量を保証する「ポートフォリオベース保証」が提供されるようになった。
CDM市場が直面する課題
【CDMにおける手続きの遅れ】
2007年には炭素市場に公衆の注目が集まり、多くのプロジェクトについて登録や発行が遅れた。CDMインフラの合理化努力はなされているものの、世界中のプロジェクト開発者からの膨大な要請を処理し切れておらず、CDMの成功は脅かされている。
【複雑なルールとキャパシティの制約】
CDMの認証を行う指定運営機関(DOE)は、登録待ちの数多くのプロジェクトを処理し切れていない。DOEにとって複雑なルールを首尾一貫して適用するための資格を持つ技術スタッフを採用、訓練、保持することが難しくなっている。結果として、いくつかのプロジェクトについて登録内容に誤りがあり、CDM理事会が多くの見直しを要求するに至っている。
CDMのルールは複雑すぎて取引費用が高くつくので、ルールを緩和すべきという批判がある一方で、プロジェクトの追加性やCDMによる予期せぬ副作用に疑問を投げかけ、さらに多くのルールを要求する意見もある。
【遅延は炭素支払いに影響を与えるおそれ】
一般的にプロジェクトの登録やCERの発行の時期は、当初の想定よりも遅くなっており、改革と合理化が喫緊の課題である。手続きの遅れによって資金の調達、プロジェクトの構成・実施が危うくなる可能性があり、こうした遅延はCDMに対する機運や市場心理にとって主要なリスクとなっている。
【民間企業と商業リスク】
CDM市場のように、市場関係者ではなく規制当局が資産・商品の生産をコントロールしている市場では、手続的遅延は商業リスクの中の重要な要素と考えなければならない。ただし、すべての問題が規制当局にあると考えるのも誤りである。民間企業も自らの経営判断の適正さを検証しなければならない。
将来展望
【炭素市場は差し当たり好調】
EU-ETSによって温室効果ガス排出を費用効果的に削減するための強固な枠組みが創られた。炭素市場の最も大きなリスクは、2012年以降に市場が継続しないことであり、この市場が継続するかどうかが政策策定者や規制者にかかっているという点である。
【CDMは分岐点に差し掛かる】
欧州委員会による2012年以降に関する提案は、EU-ETSの設計要素を強化するものであったが、CDM/JI事業クレジットの市場に十分な安心感を与えるものではなかった。欧州委員会の提案は、発行済みCERやJI事業クレジットの柔軟性や代替性が減少するなど、CDM/JI事業クレジットへの機運が非意図的に削いでしまう危険性を有している。
【CDMの再検討】
CDMの最も大きな強みは、先進国と途上国、公的部門と民間部門が協力して費用効果的に排出削減を実施できるという点である。今後の様々な課題を解決するための有効なツールとしてCDMを再検討することが望ましい。
【気候変動に対するグローバルな強力】
十分なインセンティブと長期間のリードタイムがあれば、途上国は大きな排出削減を費用効果的に行うことができる。各国はバリ行動計画の下、排出削減に関する意欲的な合意に達する特別な責任を負う。EU、米国及び主要排出国は、2009年までに排出削減について途上国の継続的努力を促す手法を見いだすことが重要である。排出削減プロジェクトやプロジェクトを開発するため、国際交渉では十分なリードタイムを持つ早期削減努力への促進策を検討すべきである。
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